『紙の動物園』ケン・リュウ

 

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

 

 表題作の『紙の動物園』が先頭に来るのはやっぱズルいよと思いながらも『紙の動物園』があるからこそケン・リュウの世界が文庫版でもまたしても読んでしまった作品。ファンタジーでありながらもどこか底が抜けてしまいそうな危うさがあって、でも、じんわりと温かい。

 その後に続く『月へ』『結縄』『太平洋横断海底トンネル小史』『心智五行』『愛のアルゴリズム』も古典的であることの安心感ともうひとつ、最後の『文字占い師』にも色濃く登場する中国とそしてアメリカという国、あるいは歴史、そこに在った人の思想が、すべての物語の根底に流れている。その大きな流れに触れるという経験がとにもかくにも新鮮で、今、自分がこの太平洋を挟む中国とアメリカという国と国の間に位置する場所でこの翻訳を読んでいるということに、まさに良質な読書体験だなと感嘆してしまう。

 歴史はもの悲しい、でも抗えない哀しみに飲み込まれてしまっても、ケン・リュウが描くSFの世界には慈しみがあって、それでいて小さな焔を見ているような気分になる。

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